絵画を描く一方で、既製品を組みあわせてユーモラスなオブジェをつくり、著名人の肖像や華やかなモード写真を撮影するかたわらで、実験的な写真や映画を制作する・・・。マン・レイ(本名エマニュエル・ラドニツキー/1890-1976)は、芸術のさまざまな領域を自由に往き来する、変幻自在な芸術家でした。けっして一つの地点にとどまらないその多彩な活動は、20世紀が過ぎ去った現在から振り返っても実に刺激にみちあふれています。一方、マン・レイの幅広い制作をみると、ユーモアと皮肉、遊び心と辛辣さなど、さまざまな矛盾や逆説が浮かびあがってきます。いわばこの矛盾や逆説こそが、若い頃に「マン・レイ(人間・光線)」と名前を変え、晩年に「私は謎だ。」と自ら言い放ったこの芸術家の本質であり、作品に不思議な魅力をもたらしている源泉でもあります。
またマン・レイが生きた時代は、二つの世界大戦によって象徴される激動の時代でした。その時代を体現するかのように、人間存在の意味を根底から問い直す新たな芸術運動が次々と登場しています。旧秩序への反逆を企て、既存の価値観を否定したダダイスム、合理主義に支配されない「真の現実」の獲得を模索したシュルレアリスム。マン・レイはこれらの運動にも深く関わりながら、同時代の芸術に大きな影響をもたらしました。このような時代を背景にしながら、マン・レイがくりかえし自問しつづけたのは、「自分とは何か」という点でした。移民の子としてアメリカで生まれながら、祖国に背を向けフランスに渡り、主にパリで活動したマン・レイにとって、自己の存在を問い、内面にひそむ謎めいた自分自身に向きあうことは、生きていく上で欠かせない営みでした。そういった自己への問いから主題を導きだし、変奏させていく手法こそ、マン・レイの特質といえるでしょう。
この展覧会は、マン・レイの世界を読み解くうえで鍵となるテーマを設け、絵画、オブジェ、版画、写真、映画など約300点で構成する本格的な回顧展です。謎にみちたマン・レイの魅力を愉しむ格好の機会となるでしょう。
会期
2004.9.11 [土] - 10.27 [日]
休館日
月曜日(9月20日、10月11日、10月25日は開館)、9月21日(火)、9月24日(金)、10月12日(火)
開館時間
10:00~17:30 (入場は閉館の30分前まで)
観覧料
一般1,000円(800円)、大高生800円(640円)
※( )内は20名以上の団体料金。
※中学生以下と65歳以上、障害者手帳をお持ちの方(付き添い1名を含む)はいずれも無料です。展覧会入場時に確認いたしますので
・65歳以上の方は、年齢を確認できるもの(運転免許証、健康保険証等)をご持参ください。
・障害者手帳をお持ちの方は、手帳をご持参ください。
主催
埼玉県立近代美術館 (第59回国民体育大会公開競技スポーツ芸術埼玉県主催事業)
後援
フランス大使館、テレビ埼玉
監修
マリオン・メイエ、巖谷國士
企画協力
株式会社アートプランニングレイ
協力
全日空、JR東日本大宮支社